業界アーカイブ(Industry Archive)は、上場企業の決算実績をもとに、陸運/倉庫・運輸セクターのトレンド分析や産業界の動向など、経営に役立つ見地で切り込んだ定量分析レポートです。
-2011年12月1日-

11年4-9月期の上場企業(全業界)の売上高成長はプラス0.39%に留まり、営業利益ベースでは13.76%と大幅な減少となりました。
3月の大震災以降の復興需要が期待されましたが、製造業の低迷は深刻で、特に全製造業の6割弱を創出する「輸送機械」は売上高11.95%減・営業利益55.69%減、「機械・電気」は売上高2.18%減・営業利益21.63%減となっています。
こうしたなか、増収増益を達成したのは、「小売」等サービス業と、資源・石油高が業績を押し上げた商社・卸売業(「中間流通」)及び「エネルギー」、そして「貨物輸送・倉庫」のわずか5業界です。
「貨物輸送・倉庫」業界が増収となった背景としては、
(1)業界で相次いだM&Aによる連結化の寄与
(2)震災後の供給制約緩和による輸送需要の増大
(3)回復した個人消費に支えられたEコマースの成長および小売業の恩恵取込
等の貢献が推察されます。
また、金融危機後、貨物運送・倉庫業界では傭車・人件費等の調達抑制を中心とした固定費削減が積極的に進められ、そうした筋肉質の事業運営体制が推進された状態で供給需要に取り組んだことが、増益の一因となったと考えられます。
| 業種 | 社数 (*1) |
売上高 | 営業利益 | ||
| 増減率 (%) |
実績 (FY11上期) |
増減率 (%) |
実績 (FY11上期) |
||
| 旅客空運 | 5 | 4.15 | 839,582 | -11.04 | 61,749 |
| 海運 | 15 | -7.77 | 2,389,434 | -116.54 | -39,018 |
| 貨物輸送・倉庫 (*2) | 65 | 6.58 | 4,101,989 | 7.87 | 155,336 |
| 陸運旅客 | 28 | -3.27 | 5,834,200 | -8.37 | 674,462 |
| 建設・不動産 | 284 | 1.68 | 15,788,600 | -6.39 | 654,260 |
| エネルギー | 28 | 14.20 | 11,881,771 | 58.43 | 675,044 |
| 素材・素材加工 | 357 | 1.92 | 30,800,896 | -15.26 | 1,657,866 |
| 機械・電気製品 | 402 | -2.18 | 44,162,106 | -21.63 | 1,902,792 |
| 輸送機械 | 129 | -11.95 | 32,548,839 | -55.69 | 907,747 |
| 食料・生活用品 (*3) | 173 | 2.22 | 13,537,317 | -4.87 | 643,751 |
| 医薬・バイオ | 88 | -0.49 | 5,092,475 | -1.98 | 791,122 |
| 中間流通 | 187 | 7.74 | 48,870,892 | 4.81 | 897,273 |
| 小売 | 202 | 0.56 | 20,082,733 | 28.35 | 877,856 |
| 外食・中食 | 57 | 3.82 | 1,236,827 | 31.29 | 62,699 |
| 広告・情報通信サービス(*4) | 257 | 1.40 | 17,067,675 | -2.08 | 2,232,910 |
| 全体 | 2,277 | 0.39 | 254,235,336 | -13.76 | 12,155,849 |
このように好不況の実態が業界ごとに明確に分かれた背景について、外部経済環境に対する各産業の耐性、つまりどの程度外部環境に影響を受けるか、という視点で考察してみたいと思います。
ひとつの検証として、近年において景気のピークとされた07年度第4四半期の実績 (*5)を100としたときに、その後日本経済全体が体験した様々なアップダウンのなかで、各業界がどれ程の影響をうけたか(どの様に変動したか)をみることにします。

| 業界 | 標準偏差 (推定量) |
| 外食・中食 | 2.605 |
| 小売 | 4.061 |
| 広告・情報通信サービス | 4.348 |
| 医薬・バイオ | 4.524 |
| 陸運旅客 | 4.864 |
| 食料・生活用品 | 5.459 |
| 貨物輸送・倉庫 | 6.216 |
| 機械・電気製品 | 9.332 |
| 素材・素材加工 | 10.458 |
| 輸送機械 | 12.037 |
| 中間流通 | 12.282 |
| エネルギー | 13.644 |
| 建設・不動産 | 14.374 |
| 海運 | 16.675 |
| 全体 | 8.159 |
07年度第4四半期以降の、各業界の売上高推移は、
上図の通りです。
各業界が描くトレンドはほぼ同じですが、その『変動
度合い』に大きな違いがあります。
比較的変動の少ない業界は、
1)医薬・バイオ 2)食品・生活
3)貨物輸送・倉庫 4)小売
5)情報通信(Eコマース含む)
であることは視覚的にも捉えることができますし、
期間ボラティリティ(右図)をみても確認できます。
こうした企業群はいずれも生活密着型かつ内需型産業であり、外部環境のショックに対して比較的耐性が強く、収益の激変が起こりにくいという特徴がわかります。今中間期で増収となった業界が内需中心であることは、こうした構造的な特徴にも裏付けられ納得感があります。
なお、上図から『変動度合い』とは別の視点として、『景気の回復度合い』についても読みとることが出来ます。
日本経済全体では、景気拡大のピーク時に比べ現在はその8割にも満たず(78%)、戻りが非常に緩慢です。一方で内需型産業については、すでにリーマンショック前のピーク時の水準に収益基盤を戻しているか、或いは維持しており、今後はその持続性が注目されます。
ここで、貨物輸送業が成長を堅持している背景について、「貨物の流動量」の視点から考察したいと思います。
下図は、製造業の出荷1件あたり及び出荷額1万円当たり重量の推移です。5年毎調査のため、最も新しいデータが05年ですが、00年から05年まで5年間で1件当たり重量は約30%減少し、「貨物の小口化」が進行しています。同様に出荷額1万円当たりの出荷量は73kgから67kgへ約8%減少しており、「貨物の高付加価値化」が進んでいることがわかります。

これはBtoC物流や医薬品物流に代表される、多岐にわたる商材別にきめ細かいサービスを要求される流通加工領域では、比較的高い物流コストが容認される傾向にあり、荷主発の物量縮小によるショックを部分的に消化出来ていることが要因の一つとして推察されます。
また、高度な流通加工や在庫管理などの「センター運営」の領域は、アウトソーシングという概念の浸透と、物流各社の自助努力により、新たな物流業務領域として確立されてきました。
ロジスティクスは、「適時・的確なデリバリー」という機能が中心であった従来型の物流業から、マーチャンダイジングを左右するエレメントの一つとして進化しつつあります。
今後の物流業界はこうした潮流を受け、高品質サービスなど「特徴あるサービス」を武器として飛躍する企業がある一方、差別化要素が少ない苦戦企業と、二極化が進展するものと推測されます。
では次に、上場貨物輸送・倉庫各企業の実績について、成長性と収益性のポジショニングから、成長のドライブとなった要因を観察したいと思います。
業界全体成長率6.58%以上の増収となった10社についてその背景を探ると、大きく以下の3つに類型化できると思われます。
(1)M&Aでの買収効果が寄与した企業
(2)消費財等、内需中心の商材にかかる物流を強みとする企業
(3)国際複合一貫輸送(NVOCC)ノウハウを活かし、輸入需要を吸収した企業
こうした動向から考察されうる、今後の同業界における実効性ある成長戦略としては、以下を挙げたいと思います。
収益基盤の拡大と、プラットフォーム化を通じた調達力及びコスト競争力を強化し、合理化を追求するモデル
消費財・生活関連商材にノウハウを持つ企業は、そのポートフォリオ比率を引き上げることで、内需同期型成長を目指すモデル
次なる投資戦略としてのグローバリゼーション推進と、それを活用した輸入物流開拓モデル
消費財物流の基盤を有し、NVOCCを駆使したOUT-INロジスティクスを実践できる企業が、当面の輸送業界の成長を牽引するであろうことを実感させる、今期中間発表であったと考えています。

※注記
・本稿における業界区分及びデータ提供はUzabase㈱により、図表は当社作成
(*1) 11年度中間決算を発表している上場企業のうち(2011/11/11現在)、8月末・9月末に中間決算を迎えた企業
(*2) 「貨物輸送・倉庫」には、貨物輸送及び保管を主業とする企業を抽出する目的で、陸運・倉庫運輸セクターに属する(1)貨物輸送業(2)港湾運送(3)倉庫業者、及び空運セクターに属する(4)国際フォワーダーを含めた
(*3) 日本たばこ産業(2914)については、本年度より適用された会計方針の変更を考慮しない実績を用いた
(*4)「広告・情報通信サービス」には、E-コマース運営企業を含む
(*5) 内閣府による第14景気循環における景気の山は08年2月、四半期基準は08年1月~3月とされている