人手不足時代の物流コンペの進め方

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西村 和洋

船井総研ロジ株式会社 エグゼクティブコンサルタント

製造業、小売チェーン店、通販企業などの荷主企業の物流改善(委託先企業選定、物流業務設計)、コストダウン、物流拠点戦略の策定などに従事し、特に、IT(情報システムの戦略、設計、構築など)を得意とする。ロジスティクスのコストダウンと品質アップの実現を、物流フロー改善・業務改善・情報システム改善等の多方面の視点から提案している。​​

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2015年に入り人手不足が物流に与える影響が顕在化してきた。物流センターではパート作業員やフォークリフトオペレーターが近隣工場との取り合いになっており、労働環境面で不利な物流センターは人員確保に苦戦している。また、トラックドライバーは特に労働環境の改善が遅れている長距離ドライバーを中心に確保が難しくなっており、休車にせざるを得ない状況が発生している。このような状況の中で相場も上昇傾向にある。

では、賃金(時給)をアップすれば良いかというと、今回の人手不足は傾向が異なると感じることが多い。以前は無理な仕事でもフィーが高ければ受ける会社があったが、最近は無理な仕事は受けない傾向が強くなっており「お金」の問題では無くなってきている。高いフィーを払えばすべてOKという訳にはいかなくなってきているということである。

このような環境の中、物流委託先を決めるときにどのようなことに注意が必要か、以下にまとめてみたい。

リスク管理

リスク回避の観点から荷主が留意すべきことは以下となる。

(1)運賃が相場(市場レンジ)の±10%に収まっているか

コンペの目的の1つがコストダウンであることは間違いない。一般の入札では最低入札価格が決められ、それ以上で最も安価な提案が採用される。最低入札価格未満では入札要件に対して品質(運営)が担保できないと判断される。しかしながら物流に関するコンペでは最低入札価格の設定があることはまれであり、最も安価な価格を提示した提案が採用されることが多い。

受託側の論理では採算がとれないとわかっていても、荷主のブランド価値、ベースカーゴの拡大、利益よりも売上優先等、何らかの判断が働き提示価格を決めている。以前はこれらの判断により不採算案件でも受託を継続していたが、受託側として人手不足により仕事を選ぶ必要が発生した時、不採算顧客の業務を継続することが困難になっている。その結果、強引な値上げ要請、一方的な解約といった荷主として最も困る状況が発生している。

採算がとれない提示を採用することがそもそもの原因のため、回避策として提示単価が市場レンジの範囲内にあるかどうかを確認することを薦めたい。

相場とは需給の関係により形作られるものであるが、市場レンジの最低価格は採算分岐点であると考えて良い。市場レンジの最低価格であれば採算のとれている最安値であり、市場レンジの最低価格未満では採算がとれておらず、将来的な値上げ等のリスクをはらんでいるといえる。目安として相場の±10%であれば適切な価格と判断され、荷主としては-10%あたりを目安に価格の判断をすることが良いといえる。

(2)業務設計に過負荷となる要素は無いか

物流業務の委託で一般的な請負契約は、成果物に対する検収であり成果のプロセスについては問わない(問うことは出来ない)。しかしプロセスの中に継続性に関するリスクが内包しているのであれば、契約前にプロセスについて適切な評価を行うことは荷主として必要である。

・ドライバー負担の観点から1運行400kmを超える運行について対策がなされているか(積み替え、デポ設置など)
・作業者負担の観点から20kgを超える荷物の扱いについて対策はなされているか(適切な補助機器の利用など)
・波動対応は残業や休出に依存しない対策はなされているか(自動化の推進、共同センターによる波動吸収など)

等のリスクを業務設計から抽出することが必要となる。

(3)路線便・宅配便以外の配送手段を有しているか

路線便・宅配便の値上げ基調は当面(東京オリンピック開催の2020年まで)継続すると想定される。値上げのきっかけが収益改善を目的としたものであったこともあり、ドライバー不足による影響以上に値上げの影響が出てくるのでは無いかと想定される。
路線便・宅配便については運賃上昇リスクが極めて高いサービスであり、自社便・区域便・共配便などでのカバー率は今後の重要なKPIである。

コンペ実施

委託の規模に関係なく、荷主としてRFP(提案依頼書)を作成することは必須である。
RFP中に要件及び提案項目・提案フォームを含めることで、情報格差無く各社からの提案を受領することが出来、適切な比較が可能となる。

ここではRFP作成以外で留意すべきポイントを挙げる。

(1)委託先決定から委託開始までの期間

委託先決定から委託開始までの期間では、主として業務フローの設計、物流センターレイアウトの設計、物流情報システムの設計・構築・テストなどの作業を行うが、ここでも人手不足の影響が出てきている。

業務フローおよびレイアウトの設計者、物流情報システムの設計者・プログラマーの不足により、従来6ヶ月程度あれば間に合っていたところが、8ヶ月〜12ヶ月の期間がかかるようになっている。

コンペの開催期間を含めると、1年〜1年半ぐらいの準備期間を見ておくことが望ましい。

(2)コンペ開催時期

下図は営業用車両の輸送トンキロ数推移であるが、3月および9月以降で輸送トンキロ数が大きくなっていることがわかる。荷物が活発に動いている時期は物流会社として人が足らず、新規の提案に充分な要員を確保することが出来ない。比較的荷量の落ち着く4月〜8月、もしくは1月〜2月にコンペを開催することが望ましい。

(3)合同説明会の開催

人手不足の時期、新規の見積もりは、やや高い金額を提示される場合が多い。コンペの説明会は個別に行う場合もあるが、牽制の意味からも説明会は参加各社合同で行うべきである。競合の存在を意識していただくことで各社のベストプライスを入手することが出来る。

提案内容の評価

提案内容の評価については、人手不足の時期は前記のリスクを精緻に評価する必要があるが、それ以外の部分はその他の時期と大きく変わることはない。以下に提案内容の評価ポイントを記す。

(1)評価項目

評価項目は大きく「施設」「業務設計力」「輸配送」の3点で評価を行う。見るべきポイントは
「施設」…拡張性、機能性、BCP対応
「業務設計力」…データ分析力、レイアウト、業務設計、要員計画、業務品質
「輸配送」…路線・宅配便以外の利用割合、リードタイム
である。

(2)物件の視察および運営中の現場視察

委託先の選定に先立ち、候補物件の視察および運営中の現場視察は必ず行っていただきたい。

「候補物件の視察」…レイアウト図面では伺いにくい使い勝手、照度、床面の状況、周辺の環境などを確認する。

「運営中の現場視察」…提案書に書かれているレベルの運営が実際に出来ているかの確認。5Sの状況および従業員(パートアルバイト含む)の動き、現場の掲示物などを確認する。また現場の雰囲気と社風を感じ取り、自社と今後パートナーシップを組むのにふさわしい企業かどうかを確認する。

(3)作業単価の価格目線作成

作業について、現在の委託単価や作業工数から単価を試算することで価格目線を作成しておくことが望ましい。価格目線よりも明らかに安いものは、その価格に明確な理由が無い限り(施設の昼間と夜間の2回転活用、既存インフラへの相乗り、など)採用すべきではない。価格目線すなわち判断基準を自社内で明確に持っておくことで、ぶれない適切な評価が可能となる。

以上、物流業界にも人手不足の影響が出てきている中で、適切なコンペを行うためのポイントを整理した。東京オリンピックの開催までの約5年間、人手不足の中で安定したサービスを提供するために合理性のある施策を行っている物流企業を是非見抜いて、選定していただければと思う。

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