ブリヂストン物流株式会社 代表取締役社長 坂梨 明 氏

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赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

今号では、ブリヂストン物流株式会社 代表取締役社長 坂梨 明 氏にお話を伺います。
同社は、タイヤ業界において日本国内だけでなく世界市場でもシェアNO.1を誇っている日本発祥のタイヤメーカーである株式会社ブリヂストンの物流子会社です。

ブリヂストン物流の強みを教えてください

当社の強みは大きく分けて2つあります。それは、「現場力」と「物流専門子会社だからこそ出来る、グループ利益を考えた提案力」です。

「現場力」は、4つのポイントがあります。
1つ目は「安全」です。
モノづくりで培ったブリヂストン流の安全基準を物流にも適用し、他社に負けない高い安全レベルを誇っています。
私は海外の赴任経験が長く、いろんな国に駐在しました。物流に関しては、直接担当していないが、物流倉庫やマネジメントを見る機会多々があり、皆さん結構物流で苦労している会社が多いと感じていました。
その後、私が日本へ戻ってきて自社の物流を見聞きしたところ、マネジメント力はダントツに高いと実感しました。
特に、タイヤ物流4大危険因子(タイヤ転倒、リフト衝突、パレット落下、設備挟まれ・巻き込まれ)に対する対策を徹底しており、絶対に災害を出さないという体制を敷いています。
運送業者様や委託業者様も我々従業員と同じ仲間と考えていて、当社と同様の安全基準で作業をお願いする安全パートナー制度を導入し、彼らの安全も守る活動を実施しています。そのため、新規契約するときは、事前にブリヂストンの共通安全規定項目(3S、危険予知、リスクアセスメント、安全ルール)を説明し、安全作業を全て教育した上で契約させていただいています。とにかく、安全は全員に守ってもらいます。
海外グループ会社へもブリヂストン物流の安全基準に基づいた倉庫レイアウト、設備・機器、作業設計を展開しています。

2つ目は「品質」です。
当社の物流センターは、誤出荷や在庫差異はほとんどゼロ水準を継続しています。それらを維持するための対策として、バーコードシステム導入や、2C(チェック&コンファーム)の徹底をしており、“2C認定制度”や“ダミーチェック”などを行なっています。
誤出荷の発生は年に何回もなく、もし発生した場合は、原因に始まり何から何まで全部チェックするという体制になっています。この遺伝子は脈々と現場に受け継がれているものです。

3つ目は、「CSR」で、「選ばれる荷主活動」を行なっています。
具体的には、「トラックを待たせない活動」(トラック待たせ15分以内を徹底)や、「ドライバーさんおもてなし活動」(休憩室整備、一事業所一地産活動、地域社会貢献活動他)を行なっています。
特にタイヤ物流は軽労化が進んでおらず、積込・積み降ろしに、約1時間30分もかかっています。これは高齢化や女性の活躍といったトレンドにあっていません。この作業の軽労化・時短にも積極的に取り組んでいきます。

4つ目は、「コスト」です。
船井総研ロジさんに検証頂きました(※過去、当社船井総研ロジが物流企業診断・評価を行いました)。その結果、倉庫荷役の生産性、現場改善力や、グループの知名度・荷量を背景とした物流調達力(トラック輸送、海上輸送、倉庫 等)で競争力があり、親会社グループへのコストメリットを生み出している事がわかりました。
安全を高める、品質を高めることを考えると、必然的に生産性も良くなっていき、コストも下がってくるという風に思います。安全や品質を高めるためにやりすぎているところもあるためバランスを考えていかなければと思いますが、無駄を省く、作業標準をしっかり守ることで生産性に結びついていくことは確かです。

「物流専門子会社だからこそ出来る、グループ利益を考えた提案力」は、3つのポイントがあります。
1つ目は「運ばない・置かない」です。
個社の売上・利益に縛られず、グループ物流費の最適化/削減をKPIとした事業への取り組みを行なっています。たとえ、自社の売上・利益が低下しても、グループとしての物流費が削減出来る施策があれば、提案・実行を行ないます。
また、物流拠点・輸送手段の集約や変更を行なうことで、動線を短くし、リードタイムを短くすることができます。
他には、倉庫作業の効率化を行い、生産性アップを図ります。

2つ目は、「組み合わせ・共同物流」です。
生産から販売まで一気通貫で運ぶ、販売物流の取り込みを行なっています。例えば、販社物流へ取り組むことで、販売会社は販売に専念してもらえるようになります。また、タイヤの場合、販売店さんの納期要求がタイトで、販売会社が細かく対応していました。ですが、そこに我々が入ることでシステマティックに、もっと効率よく、しかもサービスレベルを落とさないで出来るように親会社も含めて考えています。
他には、タイヤとその他の商品の共同物流(リトレッド、ホイール、原材料、工業用品など)を行なっています。これはブリヂストングループ全体を私達は分かっているから出来ることであり、我々しか出来ないと思っています。

3つ目は、「多角化物流強化・海外事業への貢献」です。
タイヤ物流で培った品質・コスト競争力、企画提案力を活かして、事業分野の拡大を図っています。これにより、①利益貢献②共同物流の拡大によるグループ物流、といった点で貢献しています。
国内物流で培った知見をグループ海外拠点へ展開・活用することで、グループ全体を強くしていこうと思っています。

2012年から始まった運賃値上げ要請による貴社の影響はいかがでしたか

値上げ要請が来たときは、単純に他社がどうであるとか業界がどうであるだけではなく、我々が蓄積しているデータに基づいて検討させていただいています。相互にリーズナブルな水準を目指し、輸送子会社データを活用して評価を行い、路線ごとの予測原価に基づく理論運賃をベースに交渉しました。
2015年は燃料費のダウンにより値上げの要請はほとんどなくなっていますが、今後は燃料費の高騰に加え、ドライバー不足による運賃の高騰を懸念しています。対応として、近距離での二回転輸送、遠隔地へのハブ&スポーク配送、物流センター再配置による配送距離の短縮、需要近地を考慮した工場選択などによりコストアップ抑制に注力しています。
繁忙期の安定的な車両確保と運賃の季節変動増加抑制については、荷量に応じた料金体系の設定や、閑散期における輪番制の導入など運送会社との長期的・安定的な協力関係・信頼関係を更に強固にし、この難局を乗り切りたいと思っています。

委託先運送会社との関係構築についてはどのようにお考えでしょうか

車両・安定的運賃の確保の為、協力運送会社様との長期的/継続的な協力関係は必須だと考えています。
また、協力運送会社様にもブリヂストングループ基準の、“安全・品質・環境、CSR、コンプライアンス”を備えたサプライチェーンの一翼を担って頂く為、我々の要求基準と具体的指標を理解・賛同頂く必要があります。この活動は協力運送会社含む取引様全てとその従業員の方々を守る活動でもあります。これらの考えに基づき、協力運送会社様とは、共存共栄の協力関係構築を図ってまいりましたし、今後も強化していきます。
具体的には、輸送共有会の定期的会合開催による情報共有化と意見交換や、協力運送会社様を含む業務委託先への、ブリヂストングループの安全パートナー制度の展開、繁忙期前の運送会社訪問(配車増便の協力要請と情報共有化)、困りごとの吸い上げ(荷卸し先の待たせ等)と改善実施、といった活動を継続・強化していきます。

貴社が考える、物流子会社の使命とは

「物流子会社」の使命は、「グループへの連結業績への貢献」と認識しています。
ブリヂストン物流は、本当に荷主に役立つ物流を提供する為、CSRを基盤に下記4つのキーワード(①「運ばない・置かない」②「組み合わせ・共同物流」③「多角化物流強化・海外事業への貢献」④「社内基盤強化:CSR、コンプライアンス、ガバナンス」)をベースに、品質・コストの優位性を実現し、グループ物流費の最適化・顧客価値の最大化を実現しています。

グループ内外の物流事業でそれぞれ次の点を意識しております。
グループ内物流事業は、物流品質とコスト競争力維持・強化を図り、物流会社の「個社売上・損益」に縛られず、全体最適の視野に立ったグループ物流費の最適化/削減の提案を行っています。

グループ外物流事業では、グループの知名度・安定した荷量を背景とした、競争力ある物流調達力を活かしたビジネス拡大しています。それにより得たビジネスの広がりや、荷物の多様性を活用しグループ物流へ貢献しています。具体的には、①帰り便活用 ②閑散期の荷物確保 ③輸送回転数アップなどです。

今後の成長シナリオ

担当するそれぞれの分野でブリヂストン物流の強みを生かして品質・コストでさらなる貢献をしていきます。

(1)国内タイヤ物流
主力である国内タイヤ物流は、取扱いの大幅拡大は見込めませんが、物流動線の改善(「運ばない・置かない」、「組み合わせ・共同物流」)によるグループ物流費最適化の余地はまだまだ大きいと考えています。
特にドライバー不足など、物流環境の変化やインターネット取引増加や宅配便の発達などの物流高度化に対応するためには、タイヤ物流においても自動化やIT化などを駆使して新しいタイヤ物流の形を提案していかなければ生き残れないし、それこそが物流子会社の役割と考えます。これが最大の課題です。

(2)タイヤ以外のグループ国内物流
タイヤ以外のグループ物流におけるブリヂストン物流の取扱いシェアはまだ半分以下で、今後十分に取り込む余地があります。タイヤと合わせてグループ一体となった物流の効率化を提案することによりグループに貢献していきます。

(3)グループ外物流
物流コスト競争力・パッケージ提案力を活かし、5年間で3.3倍に成長するなど、グループ外物流事業の拡大を続けています。このようにグループ外物流事業で得たビジネスの広がりや荷物の多様性を活用し、グループ物流へ貢献しています。

グローバル戦略はありますでしょうか

ブリヂストンは地域ごとに独立した事業の体制をとっており、我々は基本的に日本の物流を担当しているため、グローバルの物流全体を担当する立場にはありません。
しかし、海外の品質や安全やコストと当社のレベルは圧倒的に違うため、展開すればグループ全体が強くなると思っています。ですから、そちらのほうを積極的にやっていこうと思っています。昨年タイヘ行き、我々の知見を水平展開する為のフィジビリティースタディーを実施し、その可能性の大きさを再認識しました。
すでに海外へ支援を実施しており、さらに推進する事で、グループの海外事業への貢献を目指していきます。

ダイバーシティーに対する考え、施策などはいかがでしょうか

ブリヂストングループではCSRの一環として、ダイバーシティー(多様性の尊重)の考え方に基づき、様々な価値観や個性を持つ人々が「働きやすく、活躍できる」職場環境を提供することを目指しています。
ただし物流業界では3K職場、カン/コツ職場との認識が根強く、特に事業所現場での女性の活躍は相対的に少ないのが現状です。当社も同様で、現場の女性従業員は少なく、女性管理職はまだ1名(※2016/3/1付けで2名の予定)という男性社会となっています。
しかし、物流業は景気の影響は受けるものの経済を支える基盤産業として長期安定的に仕事を提供し続けられる業界です。また好きな曜日や時間帯を選択して働けるチャンスの大きな職場でもあります。
条件のミスマッチにより就労機会を失っている主婦・高齢者にとってはマッチング度の高い業界であるにも関わらず、劣悪な職場環境や重労働が就労の障壁になっていると考えています。人の手による作業が多く、作業を機械化・自動化するということを考えてこなかったタイヤ物流は特に遅れています。
労働力確保という観点でも、ここを取り組んでいかなければこれからの物流での行き道がなくなっていきます。そのため当社は「荷役作業の軽労化・内製化」「おもてなし活動」を重点施策として取り組んでいます。

また、職種によっては外国人でも十分に能力が発揮できる職場もあり、今後は外国人の活用にも取り組んでいきます。

特に“出荷立ち会いや配車”などは業者の方やドライバーさんとのコミュニケーションが必要な仕事ですので、女性のほうが活躍できる可能性が高いです。究極的には自動化を進め、倉庫作業はすべて女性でオペレーションできるようになることが理想です。
さらには本社でも企画のできる管理職をどんどん育成し、女性視点から改善や新規事業の提案ができるようにしていきたく、そのための環境を整えていきます。

導入された積込装置

取材後記

当社(船井総研ロジ)は全産業の物流子会社評価(コスト競争力・サービスレベル・オペレーション遂行力・物流ITノウハウ・外販営業力・改善実行力・財務体質等々)をサービスメニューの主力として取り組んでいます。
今回取材にお伺いしましたブリヂストン物流様は、その評価・診断プログラムにおいてハイレベルな得点を獲得しています。
 社長である坂梨様の物流に対する「熱い想い」とブリヂストングループに対する「自社の貢献」について、並々ならない努力と実行力を強く感じたことがとても印象的でした。

ブリヂストン物流株式会社

商号
ブリヂストン物流株式会社
URL
http://www.bsb.co.jp/
創業
1995年7月1日
代表者
代表取締役 坂梨 明
資本金
4億円
株主
株式会社ブリヂストン 100%出資
年商
430億(2014年時点)
授業員数
1,051名(2014年12月時点)
事業内容
ブリヂストングループ、グループ外のお客様に関わる物流業務

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赤峰 誠司

船井総研ロジ株式会社 取締役 常務執行役員

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