物流企業が荷主を選択する

船井総研ロジ

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船井総研ロジ株式会社

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 ヤマト運輸社が値上げを発表して1カ月弱経過しました。

ヤマト運輸社によると個人客向け宅配は2017年10月1日に基本運賃が1個口あたり140~180円加算されます。

しかしながら、宅配の取り扱い物量のうち個人客向けは1割程度しかなく、大半が通販企業を中心とした法人との契約です。

法人に対しては既に交渉を進めており、2017年9月末までに新たな契約を締結するスケジュールで進んでいるようです。

もうすでに値上げ要請を受けているという企業もあるでしょう。

宅配貨物の取り扱い物量は通販業界の拡大とともに年々増加し、昨年の取り扱いは38億個を超えました。

これは2013年と比較すると9.7%(およそ3.5億個増加)も増加しています。

それに対して製造業・卸売業・小売業の輸配送業務を担っている一般貨物運送業者(特別積合わせ)の2016年取扱い物量は2013年とほぼ同量(645,000トン弱)でした。

では、物量が増加していない特別積み合わせ業者が値上げ要請をしてくることはないのでしょうか。

答えはノーです。

特別積み合わせトラック大手企業はもうすでに値上げ要請の時期をうかがっていることでしょう。

BtoB事業を行う日本最大の物流企業である日本通運社がヤマト運輸社の値上げに追随して、取引顧客数十万社を対象に値上げ交渉を行うことを発表しました。

配送を外部委託して発生する外注費が高騰していることが主な要因です。

特別積合せの物量が増加していないにも関わらず外部委託料が高騰した背景には、昨今よく言われている人手不足による人件費の高騰、貨物の小口化に伴う件数増加、労働法制の見直しによる時間外労働の削減などが挙げられます。

上記要因はどれも物流企業だけで解決できる問題ではなく、荷主企業と物流企業が協力していかなければ解決できません。

特に人手不足・時間外労働の削減に対しては物流業務の省力化・効率化が必要となります。

物流業務の省力化・効率化は今までもITを駆使した在庫保管管理、トラック積載率の管理やトラックの稼働を高めるための車両動態管理などがありました。

さらに省力化を推進するためには蓄積したビックデータを自動的に解析し判断を行うAIの導入や、自動運転技術の実用化に向けた検討などが求められてくるでしょう。

 また、並行して物流会社が荷主に対して物流サービスの見直し要請や値上げ要請を協議する場が増えていくと思われます。

今まで物流企業は顧客である荷主企業の要望には可能な限り応じてきました。

それは荷主が物流企業を評価し、選んできたことを意味します。

しかし、今後は物流企業が損益の合わない荷主とは契約を締結せず、法令に遵守した形で業務が行え、利益の得られる荷主を選んでいくことになるでしょう。

現状の物流委託業務はコンプライアンス違反していませんか?

過剰な物流サービス依頼を追加費用なしで行っていませんか?

既存委託先が解約通知をしてきた際の対応策を保持していますか?

 国土交通省は2014年「トラック運送業における書面化推進ガイドライン」を発行しています。

基本的に本来は物流業務を委託する荷主と受託する物流企業間で契約書ないし約款において業務領域を明確化し、それに対しての作業料金というものが締結されているものです。

しかしながら過去から継続して物流業務委託している場合などにおいて物流業務委託領域が不明確、請求単価が記載されている約款を締結していないことが稀に見受けられます。

この場合業務を委託している荷主に対しても物流委託企業に対する下請法違反とみなされ公正取引委員会から勧告を受けることもあるのです。

もし勧告に従わなければ独占禁止法に基づく「排除措置命令」や「課徴金納付命令」が出され、民事上でも賠償責任を受ける可能性があるのです。

また、荷主に対して物流委託企業に対し、トラックドライバーの労働時間を無視した指示・強要があった場合にも国土交通省から勧告を受け荷主名、事業概要が公表されることもあるのです。

(国土交通省開示資料:http://www.mlit.go.jp/common/001139552.pdf)

過度な物流サービス依頼の例としては、顧客倉庫内にある指定の棚までの商品格納業務や顧客の所有フォークリフトを利用した軒先渡し、バルク車での顧客タンクへの接続業務など挙げるだけでもきりがありません。

その業務が過度な物流サービスではなく必要な業務である場合は明文化し、その業務に対する単価を約款で締結することもあるのです。

今までは荷主企業の物流サービスが営業手段の一環であったと思います。

しかしこれからは荷主が当たり前であった物流業務をコンプライアンスの視点で見直し、最適な物流サービスというものを考えていく必要があるのです。

最後にですが、現行の物流業務委託企業に継続拒否される可能性はありませんか。

解約通知された場合の対応策を講じていますか。

荷主企業は改めて自社物流を把握する必要があるでしょう。

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